関東大震災から100年 自治体が市民を守ることは不可能!?【2023年9月号】

  2023/8/31
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9月は防災月間で1日は防災の日。1923年の関東大震災をきっかけに、災害に対する心構えなどを育成する目的として昭和35年に制定された。今年は関東大震災からちょうど百年を迎える。

政府の地震調査委員会が発表した今後30年以内に震度6弱以上の地震が発生する確率を示した予測地図(20年版)によると、千葉市の発生確率は62%。地震以外にも台風や大雨などの自然災害に対して、私たちは十分な備えができているだろうか?

これまで防災活動に取り組んできた稲毛区選出の千葉市議会議員、渡辺忍氏と守屋聡氏の協力のもと、地域防災をテーマに対談取材を行い、千葉市が取り組んでいる防災対策や、日ごろの活動を通して感じていることを語ってもらった。(取材8月3日/千葉市役所にて)

欠かせないのは当事者意識

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稲毛新聞(以下・稲)
防災と言っても広範囲で語り尽くせないと思いますが、まず避難所についていかがでしょう?

渡辺忍氏(以下・渡)
広く知っていただきたいのが、避難所の運営を円滑に行う「マニュアルBOX」の存在です。円滑に避難所を立ち上げ運営できる方法の一つで、避難所開設から運営に最低限必要なマニュアルや資材が入った箱を自作して避難所運営の訓練を受けた人がすぐに避難所に駆け付けられない場合、箱の中身を活用して誰でも避難所が開設できるように工夫されています。

守屋聡氏(以下・守)
市では希望する避難所運営委員会に見本を貸し出しているので、ぜひ活用していただきたいですね。私は4年前の12月、柏台小学校地区の避難所運営委員会に声かけをして避難所宿泊体験を実施しました。柏台小学校体育館は朝方に室温マイナス2℃まで下がり、体操用マットと持参した寝袋では寒くて眠れないことがわかりました。避難所にはアルミ毛布が備蓄されていますが冬場は床が冷え込み過酷な状態。自治体任せにせず各々が避難所の在り方を考えていかなければと痛感しました。

渡・避難所生活を実際に体験するのは貴重ですね。自治体はハード面を整備しますが、ソフト面は私含め市民主導でやっていかなければと思います。避難所へ行くまでも課題が多くて、例えば自力で避難できない方は「避難行動要支援者」として災害時にどう支援するのか、地域の福祉関係の方も関わり市で避難計画を立てているところです。ケアが必要な方たちのための福祉避難所は、福祉施設がその拠点になる協定を結んでいるのですが、まだ訓練が行われていない施設もあり課題だと感じています。

稲・知人の独居高齢者の元に、市から「避難行動要支援者名簿に載せていいか」という確認の手紙が来たそうです。

渡・それは地域が「支え合いカード」をつくるための最初の一歩で、まだ地域で助け合う仕組みができあがっていない状態です。2019年の議会質問の時点では千葉市内の避難行動要支援者は約3万3千人が名簿に載っていますが、だれが手助けするのか「支え合いカード」が作成できているのはそのうち約2千人でした。ちなみに私の住むマンションは「無事です」「SOS」のカードを導入し災害時に役員が回って安否を確認します。

守・私の住む稲毛ファミールハイツでは緊急時の支援の要不要や緊急連絡先などを記載した居住者カードを自治会に提出していますが、遠方の親戚はすぐに駆けつけられないので近所でサポートする「支え合いカード」の作成は急務ですね。

稲・最近は防災リュックを備えている家も増えたようですが防災備蓄品についてはどうでしょうか?

渡・以前、稲毛区が開催した災害時のマンショントイレ問題の講座がとても勉強になりました。もちろん災害時にはまず命を守ることですが、その次は何といってもトイレ。トイレが使えないと水分摂取を控えて体調を崩す方も増えますので健康面でも大問題。各自、災害用トイレの備えは必須です。

守・その点については、千葉市では災害用マンホールトイレの整備も進められていますね。

稲・なるほど。災害用トイレが必須とは気づきませんでした。

守・稲毛ファミールハイツは、避難所の柏台小学校との間に京葉道路があり、万が一、橋梁が崩れたら避難所への移動は困難になります。そこで自治会で避難所をつくろうと進めていますが、市からは「指定避難所ではないので物資は届けられない」との指摘を受け、市との話し合いを進めています。市に頼ってばかりではいられませんから敷地内にある複数の井戸を電動から手動に切り替える方向で、1300世帯の生活用水を確保できるよう自治会も努力しています。

渡・私の住む500世帯のマンションは自宅避難をメインにしています。マンション内に避難スペースは立ち上げませんが、自治会の防災倉庫に備蓄品があり、各家庭でも物資をストックするよう呼び掛けています。そもそも市民全員が入れる避難所はありませんから自宅避難を考えるべきでしょう。 

稲・そうした自治会の防災対策があれば安心ですが、それにしても「災害時は市が助けてくれる」と思っている人がまだまだ多いのではないでしょうか。

守・その通りです。防災意識が高い地域とそうでない地域と差が出ています。千葉市は震度6以上の地震が起こる確率が高いのにも関わらず、実際は他人事にとらえている方が多いと思います。

渡・千葉市の人口約97万人に対して救急車は26台。災害時は救急車やタクシーが不足する状況になります。
怪我をしないよう地震発生時に備えて家具や家電の転倒防止策を行ったりと、室内の地震対策にも取り組んでもらいたいですね。

守・千葉市はほかの自治体と比べても防災対策が進んでいるほうだと思います。

渡・たしかに千葉市の防災は設備や業務提携は進んでいますね。市内の公民館、市立小学校、約150カ所に太陽光発電設備と蓄電池がほぼ整備され、災害時のエネルギー対策が進んでいますから。

守・災害に強い新庁舎が完成し、災害時にも業務機能を失わない総合防災拠点にもなっています。庁舎内の千葉市危機管理センターは情報収集、分析、共有、提供などを行うよう整備されていますし、私たち市民にとっても安心材料かと思います。

稲・市は様々な取り組みを進めているにしては防災情報を目にする機会が少ないような気もします。防災関連の冊子も全戸配布されているそうですが、読んでいない人が多いのではないでしょうか。

守・印刷物を配って終わりではなく「市は防災について精一杯取り組んでいる」というプロモーションや、知ろうとしない人にも目に入ってくるような活動が必要でしょう。その上で、自助を呼び掛けることが大事かと思います。

渡・市は97万人全員を助けに行くことはできませんから、「もっと当事者意識を持って、あなたはあなたを守ってください」と伝えていかなければ…。他人事に感じてしまう原因は、「きっと大丈夫」「まだ大丈夫」と思ってしまう「正常性バイアス(※注)」です。それを解決するには予備知識、とにかく自ら情報を取りにいくことですね。地域の消火栓や防災井戸、AEDの場所、ハザードマップで近隣の危険地域を確認したり、
SNSで千葉市広報広聴課をフォローしたり、防災アプリも活用してほしいです。

稲・情報が自動で入るようにすることは大事ですね。最後に、今後の地域防災活動についてお聞かせください。

渡・これまで同様にママに向けての「防災カフェ」などの開催で、一人一人に防災意識を持ってもらうための取り組みを地道に続けていきます。そして、若い力も地域にとって大切な存在なので、大学生の地域活動と防災を結びつけるような新たな活動ができたらと考えています。

守・私が地域の防災ボランティアに参加したきっかけは、2004年の新潟県中越地震。ブルーシートを屋根にし隣近所と煮炊きしている姿を見て衝撃を受けました。地域力はいざというときの防災力ですから、今後も祭りなどのイベントを通して地元のつながりを増やしていきたいと考えています。また、避難訓練や防災イベントを行い、地域に防災活動をする人たちが常にいると見せることで、関心がなかった人の目に留まる機会を増やせればと思います。

稲・防災はとても重要なテーマですから、また、ぜひお話を伺わせてください。今日はありがとうございました。


※注 災害心理学用語。都合の悪い情報を過小評価すること。

渡辺 忍
1972年生まれ。千葉市若葉区育ち。未来立憲民主ちば会派所属(無所属)。1993年青山学院女子短期大学卒業、三井物産㈱入社。2006年学童保育の改善活動を行う有志団体事務局。2008年長期休暇中の児童の居場所を運営。2015年千葉市議会議員初当選。2023年千葉市議会議員3期目当選。教育未来委員長。千葉市子ども食堂ネットワーク事務局や、いなげプレーパーク主催、プチルポ稲毛副代表などの地域活動を通し地域づくりをする人を支えている。

守屋 聡
1962年生まれ。稲毛ファミールハイツ在住。2男2女の父。防災士。2023年4月千葉市議会議員選挙初当選。日本維新の会・無所属の会幹事長。千葉市消防団第8分団4部元部長。2004年、新潟県中越地震の直後に仕事で現地を訪れた際にライフラインが復旧していないなか近隣住民が家の前で炊き出しを行い、身を寄せ合って生活をしている様子に衝撃を受けた。現在の近所付き合いの希薄さに危機感を覚え、地域の防災ボランティアに参加。それ以降、防災をライフワークとしている。

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千葉市中央区・千葉みなと発 『ローカルをサブカルでリリカルに!』 千葉市で暮らす人々のライフスタイル発信メディアです。
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