千葉一族盛衰記 第四話「武士の世を平安中期に予見した天才異端児・平高望」【2023年10月号】

  2023/10/5
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平清盛(たいらのきよもり)も高望の子孫!

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平清盛という名前を聞いたことがない人は、ほとんどいないでしょう。中学校は言うに及ばず、小学校の日本の歴史でも習いますし、テレビや新聞や物語で、必ず一度は目にしているはずです。平清盛とは平家物語の堂々の主人公。武士の台頭に先鞭をつけた平家の棟梁であり、平安末期、日本の一時代を築いた人物です。


実は、彼も平高望の子孫です。よって、平高望を知るということは、千葉一族の盛衰を理解する入口であると同時に、「平家の時代」を知るうえでもとても重要なのです。

平清盛が出てきたので、彼のライバルである源頼朝(みなもとのよりとも)と千葉一族についてのおまけの話もひとつ。「千葉一族って、源頼朝に従ったんだから、源氏なんだよね?」という誤解についてお話しします。千葉一族は、平高望の子孫ですから正真正銘の平家一門です。よって、血筋的には源氏ではありません。では、どうして源平の争乱の折、平清盛ではなく、平家を滅ぼした源頼朝に加勢したのか?

そのあたりの種明かしは、平高望からしばらく先、平安末期の千葉常胤(つねたね)前後の時代にありますので、もう少々ご辛抱ください。
さて、時代は平安の中期、平高望の時代に巻き戻しましょう。

都から上総へ

前話では、高望王が天皇から「平(たいら)」の姓を下げ渡され、上総の地方長官職を引き受けたところまでお話ししました。

当時、皇族や上級貴族が地方長官に任命されても、自分で任地に赴いて統治をすることはほとんどありませんでした。自分は京の都にいて、自分より格下の貴族や豪族に実質的な地方統治をまるごとお任せする「遥任(ようにん)」という統治スタイルが一般的だったのです。

平安時代は、京都から千葉に行くのも命がけです。道は十分に整備されていないうえに、峻険な山道をたくさん越えていかなければなりません。そんな道なき道を移動している最中、山賊に襲われ命を落とすこともありました。さらに、任地に到着できたとしても、ほとんど未開の地ともいえるような地方では、蛮族や地方の荒くれ豪族に皆殺しに遭ってしまうこともあったのではないでしょうか。そのように残念な形で命を落とした者の歴史は残りませんから、現在の私たちは知る由もありませんが、
当時はそんな「名もなきパイオニアたち」の不運な事件や事故が日常的に発生していたはずです。

一方、自分は都にいて、下々に地方統治を任せておけば自分の命は安全です。さらに、「遥任」すれば自分は中央で天皇や有力貴族たちとコネクションを深め、政治的に有利な立場にいつづけることができるうえ、俸禄だけは収入として安定的にもらえる。つまり、彼らにしてみれば、遥任せずに自らが地方に赴任することは、リスクが極端に大きいわりに、
得られるリターンがあまりないということになります。

前回お話ししたとおり、平高望が統治を任された千葉県南部の上総の地は、俘囚(ふしゅう)たちによる反乱が頻発していた「蛮族の地」といえます。統治が成功する見込みは、かなり低いとみるのが常識的な見解だったのではないでしょうか。

しかし、平高望はそんな危険極まりない上総の直接統治をあえて買って出る賭けに出ます。それどころか、正妻が産んだ三人の息子(長男国香、次男良兼、三男良将)を伴っての赴任という腹の座り様でした。

結論から言えば、この平高望の賭けは見事成功し、上総は高望とその息子たちにより平定されました。平高望は、上総介の任期が満了した後も上総の地にとどまり続け、高望流平氏の礎を築いたのです。

先に説明したとおり、彼の成功は結果的に平安時代の終わりとともにやってくる「武士の時代」を決定づけた、平清盛を生み出すことになります。

さらに、関東で「新皇」を自称し、東国の独立を高らかに宣言して朝敵として討たれた平将門(たいらのまさかど)は、平高望の孫にあたります。そして、高望の息子である良文の流れの一流が、後に千葉常胤をはじめとする千葉一族を形成することになるのです。

このように、高望からは「後の世を創った人物たち」が多数生み出されました。彼ら高望を祖とする時代の創造者たちに共通しているのは、それぞれが思い描く「武士の世の幕開け」を標榜していた、という点です。

私としては、高望の死から約270年後の1185年、鎌倉の地で花開く「武士の時代」は、平高望のパイオニア精神、統治力、そして遠い未来を予見する能力によるところが大きかったと思っています。

【著者プロフィール】 
歴史噺家 けやき家こもん
昭和46年佐倉市生まれ。郷土史や伝説をわかりやすく、楽しく伝える目的で、落語調で歴史を語る「歴史噺家」として活動。著書に「佐倉市域の歴史と伝説」がある。

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