「顧客の創造」から「働き手の創造」へ ビィー・トランセグループの新たな採用方法【2024年2月号】

  2024/2/5
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2019年に施行された「働き方改革関連法」によって、ワークスタイルや企業の在り方、考え方が変わりつつある。また、生産人口が減少傾向をたどり、企業側も人材確保のために、より働きやすい環境を整備し、子育てや介護をしながらでも働ける時間帯を提案するなど採用枠を広げる工夫を凝らしている。そんななか、千葉市のバス会社が新たな採用方法をスタートし反響を呼んでいる。日本一「あいさつ」を大切にするバスとタクシーのグループ会社、ビィー・トランセグループの代表、吉田平氏に話を聞いた。

多様な働き方の提案で自己実現をあきらめない時代に

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大型免許取得支援と勤務時間の多様化

岬観光株式会社・あすか交通株式会社・平和交通株式会社を包括するビィー・トランセグループは、30年以上前に全国で初めて女性乗務員を採用するなど、大手に負けず劣らず業界をけん引してきた存在だ。

これまでは、地元から都内や空港への高速バス運行をはじめ、地域住民の需要によって業務を新規開拓、つまり「顧客の創造」を続けてきた。しかし現在では住民需要が減少し廃線になる路線バスも出てきている。

その一方で、千葉市内に新たにできた大型物流倉庫から最寄り駅までの送迎バスのニーズは高まり、バス運転士の確保が重要課題となっている今、どのように人を集めるかは「働き手の創造」だと吉田氏は語る。

「従業員の生活を守るために、既存の方法に頼ってばかりではいられない。時代の流れに対して、どのように働き手をつくっていくのかが重要で、ニーズを探りながら企業が柔軟に変わっていける強みは、大手との差別化にもなる」。

ビィー・トランセグループでは、独自のバス運転士採用方法を昨年6月からスタート。正社員募集でも未経験者を歓迎し、合宿での大型2種免許取得のサポート制度を設けるほか、合宿だけではなく通いでも免許取得可能とした。取得費用については入社後、一定期間勤務すると返済は不要。時間帯も多様な勤務体制を設定し、働き手がプライベートの充実を図れる仕組みだ。
 まずターゲットにしたのは、プロスポーツチームの選手や関係者などスポーツに関わる人材。例えば、正社員でも早朝から昼過ぎの勤務形態を選べるため、以降は練習の時間に充てることで、自身が納得するまでチャレンジできる生活基盤の確保が可能だ。昨年の募集ではサッカークラブの運営者や3×3のバスケット選手から前向きな返答があり現在、調整中だという。

スポーツを続ける学生を応援

そして、同じような採用方法で大学生の新卒採用も視野に入れている。プロスポーツ選手になる学生だけではなく、プロにはなれなかったが今後もスポーツに関わりたい学生も対象としている。
「弊社だけではなく、今後はほかの企業と連携し、多様な職種や働き方を用意して学生側の選択肢を広げたい。学生のニーズとマッチングする仕組みをつくるのが弊社の役目」と、吉田氏は賛同企業を増やすことへの意欲を語った。

部活動の外注顧問にもフォーカス

また、地域のスポーツ活動・芸術活動に関わる人材にフォーカスした採用も。近年、全国の学校において、放課後の部活動は外注顧問とするケースも増えているため、ビィー・トランセグループでは放課後は部活指導に専念できる勤務体系を設定。教育委員会や市とも連携して、仕事をしながら地域の子どもたちにスポーツや芸術を教えたい人に、新しい働き方を提案している。

パート運転士「3時間で1万円」の反響

ほかにも家事や育児、介護との両立を目指す人に向けて、曜日や時間を選択できるパート運転士を募集。特に反響が大きかったのは「3時間で1万円」の好待遇が目を引く送迎バス専門運転士採用だ。基本的には資格保有者かつ経験者の募集だが、他社では見られない好待遇に問い合わせが相次いだ。

昨年11月から募集を始めたところ、問合せが20件以上あり、すでに4名を採用。この反響により、プライベート重視で仕事は最低限にしたいというライフスタイルの人が増えていることがわかった。

そして、好きな時間に短く働くニーズは、介護と仕事を両立させたい人も同様だ。介護のため早期退職を迫られる人が増えている現状、さらには、経済産業省が「2030年にビジネスケアラーが推定318万人になる」と発表しており、このような背景を鑑みれば、今後も短時間勤務を求める働き手は増えていくと予想される。

時給換算すればかなりの好待遇に、応募者のなかには半信半疑な人もいるというが、この点について吉田氏は「昨年、軽井沢で起きた貸し切りバスの事故以来、国土交通省は貸し切りバス事業者の運賃の目安を引き上げ、低価格を競えない仕組みになっている。現在、貸し切りバスは収益を確保しやすく運転士の時給を高く設定できる」と明かした。

新規採用は現社員の働きやすさにも貢献

新しい働き方の提案は、新規採用者のメリットだけではなく、現社員の働きやすさにもつながるという。

一般的にバス会社は、これまでの常識として、乗客の利用者数が多い時間帯、つまりピーク時に合わせて運転士とバスを増やしてきた。ラッシュ時である朝と夕方以外は業務が少ないため、基本的に正社員は、朝の業務が終わるといったん帰宅し夕方に再度出勤する。この当たり前になっている路線バス運転士の2回出社する勤務形態について吉田氏は、多様な働き手を確保し、ピーク時をカバーする人材が増えれば改善されると期待している。

トップの資質と距離感がつくる組織土壌

政府が「働き方改革」を旗振りしても、日々業務に追われ改革に踏み出せない企業は多い。実行するのは現場であり、それも企業のトップの判断がなければ現場も動けない。その点についていえば、今回の取材を通して感じたのは、グループ代表の吉田氏はフットワークが軽く、社員にとても近い存在で、それが改革を進めやすい組織の土壌になっているということだ。

採用担当者によると、今回の多様な募集要項から、社長の意気込みを感じ取って応募した人もいたという。他社とのダブルワークを希望する応募者から「世の中の動きに合わせて変わっていこうという社長の考えが、チラシを見てよくわかった」と言われたことも。「現場は実務に追われて、なかなか改革に踏み切れないものですが、社長がリーダーシップを取って自らも動いていますので、私たちもがんばらなきゃという気持ちになります」と採用担当者は話した。

吉田氏は2024年問題および人手不足の深刻化について「今だけではなく、会社を経営していれば、どの時代でも困難なことは常に起こるもの。これからも常識にとらわれず、今、何ができるのかを柔軟に考えていきたい」と語った。

多様性が求められる現代社会を生き抜くためには、トップの柔軟性は非常に重要であり、企業における必須の素養とも言えるだろう。今、どのような働き方が求められているのか、企業側が従来のやり方にとらわれず、潜在的ニーズに合わせた斬新な採用方法を提供できれば、それは働き手にとって、本当の意味での「自己実現をあきらめない時代」になる。
(令和6年1月10日取材)

吉田 平(よしだ たいら)プロフィール

昭和34年千葉県南房総市千倉町生まれ。東北大学工学部卒業後リクルートに入社。12年間のサラリーマン生活を経て、35歳の時に父が創業したバス・タクシー会社に入社、平成19年に同社代表取締役に就任。その後、第三セクターいすみ鉄道社長公募に応募し、平成20年4月より平成21年2月まで、代表取締役に就任。現在は西岬観光株式会社、あすか交通株式会社及び平和交通株式会社の3社をグループ会社とする「ビィー・トランセホールディングス株式会社」代表取締役。公共交通事業として、地域社会に根差した新しい取り組みへの実績も多数。

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