京葉線ダイヤ改正の狙いともうひとつの声【2024年3月号】
JR京葉線(東京~蘇我)3月16日のダイヤ改正問題は朝夕時間帯の快速、通勤快速を廃止し各駅停車のみにすると発表後、熊谷俊人千葉県知事や神谷俊一千葉市長他、周辺自治体の猛反発で早朝の上り快速2本の継続を決めた。ダイヤ改正発表後の変更は異例だが依然として利用者側の声を反映したとは言えない。そこで本紙は京葉線沿線の千葉市美浜区選出の大平まさひろ千葉市議会議員に一連の問題についての考えを聞いた。 (取材/令和6年2月9日)
見え隠れする美浜区民のメリット
このダイヤ改正騒動が起こったのは本紙2月号でも報じた通り。JR側の狙いは混雑の平準化、快速通過駅の利便性向上、各駅停車の所要時間短縮だったが、蘇我以遠から直通してくる通勤快速の廃止は大きな反響を呼んだ。沿線の自治体が一丸となりダイヤ改正を見直すよう求め、これら多くの不満の声を受けてJR側は朝の通勤快速2本を快速として残す譲歩を見せた。
しかし内房線、外房線、東金線利用者にとっては不満解消とは言い難い。一方的な改正に踏み切った背景にはJR側にどのような狙いがあるのだろうか。
私鉄とJRの違い
今回のダイヤ改正に踏み切った背景のひとつに京葉線に競合する私鉄が無いことがあげられると大平氏。
「JRにとって駅周辺の地域開発は、鉄道事業とは切り離している場合が多いですが、私鉄の場合不動産業など関連会社が駅周辺の開発も行ってきました。これはJRと私鉄の大きく違う点です。一般的にデベロッパーとしての役割を持ち続けている私鉄において言えば、保有する駅周辺の土地を地域の街づくり、住民の利便性、都心への速達性など総合的な開発ができました。それは鉄道利用者の私鉄誘引に繋がるからです。千葉なら主に京成、他にも京王や東急などJRと競合する路線は尚更です。逆にJRは元来国鉄であり、その時代から鉄道事業ありきの開発でした。JRと私鉄との違いはそこにあるのではないでしょうか」。
特急に誘導? JRの意図とは…
またもうひとつの要因に特急利用の推進があるのではないか。なぜJRは今回通勤快速の停車駅を増やすなどの工夫をせず簡単に廃止を決めたのか。
JRは昨年のダイヤ改正でも東海道線、宇都宮線や高崎線で通勤快速を廃止している。このような背景から通勤快速を廃止して特急利用の流れを作ろうとしているとも読み取れる。
特急は通常の乗車料金(定期券含む)プラス特急料金が必要、しかし特急料金を加算してでも混雑する電車を回避してゆったり着座しながら通勤する需要は一定数あるのも事実だ。京葉線には内房線君津駅、外房線上総一ノ宮駅から直通して来る東京駅行き(蘇我~東京間ノンストップ)の特急が朝夕の通勤時間帯にも走っている。これらの特急の乗車数を増やし収益向上を狙う意図もあるのではないだろうか。
地元選出議員に寄せられる住民の声
「朝の駅頭活動をしていると、電車利用者から『ダイヤ改正なんとかして』と怒りと不満の声が多く聞かれます」と大平氏が続けて語る。「快速が各駅停車になれば10分程度の時間差ですが、朝の10分は短い時間であっても貴重な時間です。私は議員になるまで13年間、都内へ通勤していましたから皆さんの気持ちがよくわかります。混雑しても早く着きたいから快速に乗るし、早く帰りたいから快速に乗ります。通勤時間が増えるのは利便性だけではなくメンタル面でのダメージにもなります」。
更には「平準化を目指すなら通勤快速は廃止ではなく海浜幕張駅に停車するなどの工夫が必要なのではないでしょうか。海浜幕張は幕張新都心を抱え多くの企業があり、乗る人も多いですが降りる人も多いのです。現状蘇我~新木場のノンストップ区間も長過ぎますし」とも。
また、1月に行われた千葉市議会の臨時議会では、今回の京葉線ダイヤ改正について再考を求める決議に多数が賛成。反対した1人の議員によれば、千葉市内から東京へ通勤する人は京葉線利用者全体の2割に過ぎず、千葉市内で職住完結の人が多いという理由だったというが、沿線に多くの市が存在する中で千葉市の2割は大きいと言えるのではないか。
一方、SNS上などでは今回のダイヤ改正を容認している意見も少なくない。沿線地域の人口減少やコロナ禍以降のリモート勤務の増加、ライフスタイルの多様化など理由は様々だ。国土交通省国土政策局令和4年度の駅別乗降客数データによれば、稲毛海岸駅の乗降客数は、2011年には4万3千人だったが2022年には3万4千人に減少している。
クローズアップされない賛成派の声
蘇我以遠の利用者にとっては今回のダイヤ改正は納得できない話だが「よくよく話を聞いてみると千葉みなと、稲毛海岸、検見川浜、海浜幕張の各駅の利用者にとっては、ダイヤ改正がメリットとなるポイントも見えてきます」と大平氏は続ける。「美浜区内の4駅を通過していた通勤快速は廃止される予定ですが、それが快速となり元々通過していた4駅に止まるようになる。これは4つの駅の利用者にとっては快速が維持されたと同じことになります。繰り返しますが、あくまでこれは前記4駅利用者と朝の時間帯に限ったことであり、夕刻時はデメリットが大きいです。京葉線沿線住民の全体としては、当初の利便性は損なわれてしまうので、会派として今後も千葉市議会と連携してJR東日本へと働きかけていきます」と意欲的だ。
今回のように通勤快速、快速の廃止等で住民の利便性が下がることは千葉市としてもマイナス要因でしかない。「千葉市に住んでもらいたい」と魅力創出を図ってきた千葉市だが、都心への速達性が失われてしまえば、移住検討者が他の通勤に便利な都市を選ぶことにもなってくる。また不動産広告等に「稲毛海岸駅から東京駅まで35分」などの表記が難しくなり資産価値の問題にもつながる。
今回のダイヤ改正で浮き彫りとなった様々な問題、多くのメディアを巻き込んだ注目度の高い話題が、今後どのような決着になるのか見届けたい。