アレルギー対応、無添加のおいしいスイーツを自宅販売【2024年11月号】
米粉のお菓子工房シェノン(千葉市緑区)
重度のアレルギーを持つご子息のために代替食を作っていた経験を活かし、開業した手作りお菓子工房。身体に優しい素材を使用し、食物アレルギーの有無に関わらず、誰もが安心して食べられるお菓子を提供している。
毎週土曜日「おうちマルシェ」を開店
今回、本紙編集部・稲しん子が直撃したのは、鎌取の閑静な邸宅街に立地する「米粉のお菓子工房シェノン」。代表の牧野千絵さんに、アレルギー対応のお菓子に懸ける思いや、これからの目標についてお話を伺ってきました。
稲しん子(以下・稲)牧野さんが「おうちマルシェ」を始めたのはいつからですか?
牧野さん(以下・牧)今年の7月からです。品揃えとしては米粉のシフォンケーキと天然酵母パン、クッキー、スコーン、ビスコッティなどを焼いています。すべて無添加・グルテンフリー、製品によりますが卵・牛乳・バター不使用です。
稲・反応はいかがですか?
牧・初回はたくさんのお客様が来てくれました。インスタグラムで事前告知をした効果もあったように思います。このペースなら御の字と思える来客数でしたが、やはりそうはうまくは行かないです。天候に左右されるし、夏という時期も悪くて、焼き菓子が売れなくなるシーズンなのですよ。誰でもかき氷とかアイスクリームが食べたいでしょう?
稲・まぁ、それはそうかも。
牧・あと、夕ご飯の食材や生活用品を買いに来たついでとかでなく、私のお菓子が目的で来てくれるということがすごいことなのだと改めて感じました。商業地域でもない住宅街にポツンとあるお店に来てもらうって、よほどの魅力がないと。日々勉強だと思いました。
稲・まだ出発したばかりですから。
牧・ええ、全然これからだと思っています。まだスタートしたばかりですので。今後は予約販売やセット販売など、適宜柔軟に新しいことを取り入れていきたいと思っています。
稲・アレルギー対応のお菓子を自分で作ろうと考え始めたのはいつだったのでしょう。
牧・自作は息子が幼稚園に行くようになった時からやっていました。うちの子のアレルギーはちょっとやそっとのレベルではなく、小麦、牛乳、卵、ナッツ、そば、フルーツもダメ。病院で検査するとすべての数値が振り切ってしまうくらいでした。幼稚園やお遊戯会とかのおやつをどうしようと悩んだ末、考えたのがサツマイモを使ったおやつでした。サツマイモには本当に助けられました。一番よく作ったのが大学イモ。息子はいまだに大好物ですよ。
稲・安心して口にできる甘味だったわけですね。
牧・だけど、周りの子たちはクッキーやアイス、チョコレート、ケーキなどを当たり前に食べています。自分もあれ食べてみたいと言い出すのは仕方ないですよね。そこで、「似たもの」を作り始めたのです。
稲・お菓子のそっくりさんみたいな?
牧・卵も牛乳も使えないので、代わりになる材料はないか、何度も試行錯誤するしかありませんでした。最初は歯が折れそうなほどカチカチのクッキーになったりして(笑)。しばらくしたら卵が大丈夫になったので、それからはシフォンケーキをよく作りました。アイスクリームの場合は、バナナを凍らせて、豆乳と一緒にミキサーで混ぜメイプルシロップや砂糖で甘くしたもの。そんな感じで、全部「なんちゃってスイーツ」でした。
稲・そうやって品目ごとに一つひとつ試していったのですか。
牧・息子が安心しておいしく食べられることはもちろんですが、私自身にも主人にもおいしければ、家族全員が同じものを食べられます。だからおいしくしたい、みんなで一緒のものを食べられるようにしたいという思いでした。
稲・なるほど、「みんな一緒」が目的だったのですね。それを販売するきっかけは?
牧・遊びに来た友人たちに米粉シフォンケーキを分けてあげていたのですけれど、「これ売れるんじゃない?」という感想をもらえるようになったのです。「知り合いにも食べさせたいから焼いてくれる?」などと言われたり、「買うよ」と言い出す人まで現れたり、誉められてちょっと調子に乗ってしまいました(笑)。
稲・それはうれしいですね。背中を押す人がいてくれて何よりでした。
苦労した経験をシェアできる場に
牧・とはいえ、ビジネスのことは何一つ知らないので、まず千葉市産業振興財団が開催している「創業者研修」を受けました。修了すると補助金の申請ができるようになるのです。
稲・本格的ですね。
牧・ここで教わって書いた事業計画書を見せながら、主人に「こういうことをやりたい」と説明したのです。その時点では「やってみれば」と言ってもらえたのですけれど、「自宅にシフォンケーキの自動販売機を設置する」という計画は大反対されました。
稲・なぜ急に自動販売機なんですか?
牧・もう一つのチャレンジとして商工会議所の「小規模事業者持続化補助金」に申請したからです。とても大変な申請で、非常に難しかったので私もまさかではありましたが、その自動販売機の事業案が採択されたのです。しかし経費が出るとはいえ3分の2までですし、最初は全額持ち出しです。そのお金をどうするかや諸々の反対意見があり、残念ながら辞退しました。
稲・もったいない気がしますが、ご主人の心配もわかります。
牧・諦めて、近所のショッピングモールで委託販売をさせてもらったり、インスタグラムを通じてのネット通販も始めたりもしました。実は商工会議所主催の「合同プレス発表会」に参加して、プレゼンさせていただくことができたのです。2社の新聞社に記事で紹介していただき、米粉スイーツの認知度が一気に高まりました。
稲・支援してくれる人たちとのいい出会いがあったのですね。
牧・結局、今の自宅で売る形にシフトしましたけれど、それはコミュニティ作りに力を入れていきたいという思いがふつふつと湧き上がったからなのです。
稲・コミュニティ作りと言いますと?
牧・お菓子の教室というアイデアは一つ持っています。それと、どこかに集まってお茶会みたいにするか、Zoomでもいいかもしれない、とにかく情報を共有するための場を作りたい。アレルギーの子供を育てた経験者として、いま悩んでいる人に提供できるものがあると思うのです。
稲・おうちマルシェでお菓子を買えて、お菓子作りも学べて、アレルギーに関する相談もできる、みたいな?
牧・はい。もちろん簡単にはいかないことはわかっていますが、
後戻りをする気もないので、とりあえず一つひとつチャレンジしていこうと思っています。
稲・コミュニティができれば喜ぶ人がたくさんいるでしょう。実現の日が近いことを願っています。本日はありがとうございました。
米粉のお菓子工房シェノン(千葉市緑区)
https://www.instagram.com/chainon13/