NO.114「助けて」の声に、今度は自分が応える番 美容院「 morphée (モルフェ)」茂原市

  2025/6/30
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「Facebookが、命を救ってくれたんです」

そんな話、信じられますか?

2019年の秋、茂原の冠水した道路で、車ごと濁流にのまれかけた一人の美容師がいました。
とっさに「誰か助けて」とFacebookでライブ配信──それを見た友人が声をかけ続け、やがて救助に。

その経験をきっかけに、「今度は自分が誰かの“助けて”に応えたい」と立ち上がったのが、
茂原市にある美容室「morphee(モルフェ)」を営む齋藤丈嗣さんです。

この記事では、“髪を整えること”で“心を支える”
医療美容師としての覚悟と、人と向き合う優しさを、じっくりと掘り下げていきます。

齋藤丈嗣さんが“医療美容師”として届ける、心と髪のケア

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最初にお会いしたとき、齋藤丈嗣さんがぽつりと話してくれた言葉が、今でも忘れられません。「僕、助けてもらったから──今度は、誰かの“助けて”に応えたくて」
その話のはじまりは、2019年10月25日。台風による大雨で茂原の一部が冠水し、丈嗣さんは車ごと濁流に巻き込まれたそうです。「マジで死ぬかもって思いました。でも、とっさにFacebookでライブ配信したんです。“誰か助けて”って」奇跡的にその配信を見ていた友人が声を掛け続け、後に救助に至りました。
彼は命を取り留めました。
「命を助けてもらったって感覚なんですよね。あの経験がなかったら、今こうして医療美容師にはなっていなかったと思います」

美容室でできる「人の支え方」を考えた

齋藤さんが営むのは、茂原市茂原499にある美容室「morphee(モルフェ)」。一見、まちの静かなサロンに見えるこの場所で、今、特別な技術と想いが交差しています。
齋藤さんは「医療美容師」という、全国でも500人程度しかいない専門資格の持ち主。がん治療や脱毛症などで髪を失った方へ向けて、ウィッグのカットや外見ケア(アピアランスケア)を行っています。morpheeでは、完全予約制・貸切対応で、来店者が人目を気にせず、安心して過ごせるよう配慮されています。
「“美容室に行く”ってこと自体がハードルになる人がいるんです。だから、まず“来られる場所”にしたかった」そこには、美容師である前に「一人の人としてそばにいたい」という姿勢がにじんでいます。

はじまりは、同級生の一言から

活動の原点は、がんを治療中の同級生からのメッセージでした。「ウィッグの前髪を切ってほしい」抗がん剤治療中にウィッグを用意したものの、不自然さや違和感に悩んでいたそうです。
「美容室に行くのもつらい。でも、放っておくのもしんどい。──そんな気持ちにどう寄り添えるか、考えました」齋藤さんは、その言葉に背中を押されるように医療美容師の道へと進みました。

“買ったまま”では終わらせない。4体のウィッグに向き合う

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ある日、治療前の女性がウィッグを4体も持って来店されました。「これは全体カット、これは前髪だけ、これは今後用に…」カットだけでなく、自然な毛流れ、顔まわりの丸み、印象の“残し方”に至るまで、仕上がりに妥協はありません。
「“買ったままのウィッグ”って、どうしても“つけてる感”が出ちゃう。だけど、その人に馴染むように調整すれば、自分らしく見えるんです」
美容師という技術職でありながら、心のケアをする福祉のような一面も感じる──そんな現場でした。

髪を“贈る”ことの意味と責任

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齋藤さんは自身でもヘアドネーションを経験しています。morpheeも賛同サロンとして、正しい寄付の方法を発信しています。
「ヘアドネーションって聞こえはいいけど、正直“モグリ”も多い世界なんですよ。ちゃんと届かないって、悲しいじゃないですか」だからこそ、知識と仕組みを伝えることも、美容師の役割だと語ります。

「全国の誰か」より「目の前の誰か」の笑顔のために

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現在、齋藤さんは医療美容師の全国組織「一般社団法人RAMBS(ランブス)」の広報担当としても活動中。制度整備や医療機関との連携、将来的な国家資格化まで、医療美容という分野を“誰でも使えるケア”に広げることを目指しています。
「でも本当は、僕じゃなくてもいいんです。行きつけの美容師さんが医療美容師だったら、本人がいちばん安心でしょ」だから、技術者を増やしたい。制度も、理解者も、支える人も。そうやって“特別なことじゃなくて、当たり前のこと”にしていきたいと語ってくれました。
そして、最後にこんな言葉を残してくれました。「自分を通して、半径1メートル、2メートルの人が笑顔になってくれたら、それでいいんです」広げるより、届ける。誰かのすぐそばで、美容を通して心を支える。それが、齋藤さんの原点です。
取材中、何度も「僕じゃなくていい」と口にしていたのが印象的でした。それは責任の放棄ではなく、“自分だけが特別である必要はない”という希望のようにも聞こえました。
外見が変わることは、自分らしさが揺らぐこと。そんなときに、「見た目を整える」ことは、決して表面的なことではないのかもしれません。
読者の皆さんは、どんなときに「助けて」と言えますか?そして、誰かの「助けて」に、どんなふうに応えたいと思いますか?

取材・ライター 伊藤遥
*掲載内容は取材日時点のものです。
(取材日2025年6月30日)

DATA
morphée (モルフェ)
住所 〒297-0026 千葉県茂原市茂原499
TEL  0475-38-5545
営業時間 10:00 – 16:00
定休日 火曜日+α
    セミナー等でお休みをいただくことがございます。お気軽にお問い合わせください。
駐車場 6台 
HP https://www.morphee.jp/
Instagram https://www.instagram.com/morphee6/
ランブス https://www.rambs.jp/
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